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金利上昇は首都圏マンション市場を「壊さず選別」する?価格帯と築年数に現れた構造変化
投稿日 2026年3月8日 10:22:05 (ニュース)
インフレと実質賃金の乖離が示す家計の実態

現在のマクロ環境を見ると、インフレ率(消費者物価指数の対前年比)は概ね2~4%で推移しており、日本は明確なインフレ局面にあることがわかります。しかし、実質賃金は長らくマイナス圏にあり、「物価の上昇」が「賃金の上昇」を上回る状態が続いています。これにより家計の購買力は低下しており、この状況下での金利上昇は「物価高」+「実質所得減」+「借入コスト増」という三重苦となり、本来であれば住宅需要は冷え込むと予想されます。

しかし、実際のマンション市場は単純な需要減少という形では動いていません。
首都圏中古マンション価格の実態

首都圏の中古マンション成約坪単価の推移を見ると、東京都では明確な右肩上がりの傾向が続き、神奈川県・埼玉県・千葉県では横ばい基調となっています。この違いは、市場参加者の構造に起因すると考えられます。東京都の市場は投資需要と実需が混在している一方、神奈川・埼玉・千葉は実需が中心です。そのため、「金利上昇」という同じ外部環境の変化でも、その影響の受け方が異なっています。
東京都:1.5億円を境に起きた構造変化
東京都の販売データを価格帯別に見ると、より明確な構造変化が確認できます。

1.5億円以上の高額帯では、2024年9月前後から販売日数の増加と値下げ回数の増加が同時に発生しました。これは、物件が売れるまでに時間がかかり、値下げしても売れにくい状況を示しています。この時期は、政策金利が0.25%に引き上げられ、金利のある世界が現実のものとなったタイミングと重なります。調達コストが増大し、特にレバレッジを活用する投資層にとって厳しい環境となりました。この価格帯は投資層と高所得実需層(いわゆるパワーカップル)が混在しているため、投資マネーによって押し上げられていた価格水準に対し、実需層がついていけなくなり、需要が減退したと考えられます。
一方で、1.5億円未満のゾーンでは真逆の現象が起きています。販売日数は短縮し、値下げ回数は減少しており、値下げをしなくても売れる状態が続いています。これは、高所得実需層が、より価格を抑えたゾーンへ移動したことを意味します。需要が価格帯の再編を引き起こしたと言えるでしょう。
三県でも起きたグレードダウン

神奈川・埼玉・千葉でも同様の現象が確認できます。2024年7月前後を境に、2006年以降築の高価格帯物件の成約比率が低下し、築年数の古い物件の成約比率が上昇しました。価格水準自体は大きく崩れていませんが、購入対象は「築浅・高価格」から「築古・価格抑制型」へとシフトしています。ここでも、需要が消滅したわけではなく、選ばれる物件が変わっただけという点が共通しています。
金利上昇は価格を下げなかった理由
これらの分析を整理すると、金利上昇により高額帯や投資寄りの市場が減速したものの、需要は価格を下げる方向ではなく、別の価格帯へ移動したという構図が見えてきます。結果として、政策金利の上昇は、マンション価格全体の下落には直結しなかったというのが実証的な結論です。
2026年の鍵:実質賃金の転換
今後の焦点は実質賃金です。2026年は、賃上げの継続により実質賃金がプラスに転じる可能性が高いと見られています。もし、「実質所得の改善」と「金利上昇の吸収」が同時に進めば、住宅購入余力は回復するでしょう。その場合、金利上昇があっても、「価格下落」ではなく「選別強化」へと進む可能性の方が高いと考えられます。
結論:調整は「市場全体」ではなく「価格が先行した部分」から起きる
以上の分析から、金利上昇が直ちにマンション市場全体の価格下落を引き起こすわけではないことが分かります。実際に起きているのは、高額帯から準高額帯への需要移動、築浅から築古へのグレード調整、投資主導ゾーンの減速といった価格帯や商品特性ごとの再編です。需要は消滅しておらず、可処分所得と金利環境に適合するゾーンへ移動しているだけと言えます。その中で、今後最も注意すべきなのは、「価格だけが先行したエリアから調整が始まる」という構造です。具体的には、実需の裏付けを超えて投資資金が流入したエリア、所得水準の上昇を上回るスピードで価格が高騰したエリア、「築浅×広面積帯」など価格プレミアムが過度に乗った物件群といった「価格主導型」の市場から、流動性の鈍化や価格調整が顕在化する可能性が高いと考えられます。
金利動向のまとめ (2026年1月)
変動金利について

2026年1月の変動金利は全体としてほぼ横ばいでしたが、DH住宅ローン指数は0.908%と、前月の0.902%からわずかに上昇し、前年同月の0.611%と比較すると明確な上昇水準にあります。月次では小動きに見えますが、年単位で見ると金利は緩やかな上昇トレンドに入っていると言えるでしょう。2月も個別の銀行ごとに上げ下げはあったものの、全体として横ばいで推移しました。2025年12月に日本銀行が利上げを実施し、今後も追加利上げ観測があるため、短期プライムレート連動の変動金利には引き続き上昇圧力がかかる局面と考えられます。
10年固定金利について

2026年1月の10年固定金利は明確な上昇となりました。DH住宅ローン指数は2.254%と前月の2.086%から上昇し、前年同月の1.443%と比べても大幅な上昇です。日本国債10年物利回りも上昇しており、長期金利の上昇ペースは加速している印象です。10年国債の上昇を受け、多くの銀行が2%を超え、一部では3%台に到達しています。日銀のイールド・カーブ・コントロール終了により市場金利がより直接的に反映される環境となり、財政拡張政策や国債増発への懸念から長期金利には上昇圧力がかかっています。今後も上昇基調が続く可能性があります。
全期間固定金利について

2026年1月の全期間固定金利も上昇しました。DH住宅ローン指数は3.063%と前月の2.868%から上昇し、前年同月の2.171%と比較しても大きく上昇しています。全期間固定は3か月連続で全金融機関が引き上げる状況となっており、金利上昇の勢いが最も強く表れている分野です。フラット35を含む全金融機関が金利を引き上げており、多くの銀行で3%を超え、一部では4%に到達しました。超長期国債の利回り上昇が続いており、国債増発懸念も相まって上昇圧力が強い状況です。今後も一段高を試す展開が想定されるものの、すでに水準はかなり高く、どこかで上昇ペースが鈍化する局面も視野に入ります。
筆者プロフィール

福嶋 真司(ふくしましんじ)
マンションリサーチ株式会社 データ事業開発室 不動産データ分析責任者/福嶋総研 代表研究員
早稲田大学理工学部を卒業後、大手不動産会社でマーケティング調査を担当し、その後建築設計事務所で法務・労務を担当。現在はマンションリサーチ株式会社にて不動産市場調査や評価指標の研究・開発を行う傍ら、顧客企業の不動産事業における意思決定をサポートしています。また、大手メディアや学術機関にもデータおよび分析結果を提供しています。
マンションリサーチ株式会社について
マンションリサーチ株式会社は、不動産売却一括査定サイトを運営しており、2011年の創業以来、日本全国の14万棟のマンションデータや約3億件の不動産売出事例データ、不動産売却を志向するユーザー属性の分析データなどを収集しています。これらのデータを基に、集客支援・業務効率化支援、不動産関連データ販売などを行っています。
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